根本規範という概念は有用か?

 

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根本規範という概念は有用か?
Author(s)
森村, 進
Citation
一橋法学, 10(3): 49-75
Issue Date
2011-11
 

根本規範という概念は有用か?
森  村   進
I 序
II 根本規範論の概要
III 根本規範の想定は法体系の存在のために必要ない
IV 根本規範は法の内容の解明に役立たない
V 法の統一性
補論:最近約 40 年間の日本におけるケルゼン研究
I 序
 本稿の目的は、ハンス・ケルゼンの「純粋法学 Pure Theory of Law; Reine
Rechtslehre」の中で顕著な、一見不可欠の役割を果たす「根本規範 Basic Norm;
Grundnorm」という概念が何らかの意味で法の理解にとって有益かを検討する
ものである。その問題に対する私の回答はおおむね否定的である。
 本論にはいる前に、三つの前置きを述べておこう。
 最初に、ケルゼンの「純粋法学」と呼ばれる法理論は時代によって無視できな
い変化があるらしいが、私は初期と最晩年のケルゼンの法理論についてよく知ら
ないので、一番よく読まれていて有名な中期の著作を検討するが、その中でも
『法 と 国 家 の 一 般 理 論』(Kelsen[1945])と『純 粋 法 学(第 二 版)』(Kelsen
[1967])を正典的な著作として用いる。それはこの二冊がもっとも網羅的かつ体
系的に彼の法理論を展開しているからでもあるが、もうひとつ理由がある。それ
は、中期の代表的著作の中でもそれら以前の『一般国家学』(Kelsen[1925])
や『純粋法学(初版)』(Kelsen[1934])では慣習法がほとんど無視されて成