ハーバーマスの公共性論--連帯の哲学(001)

 

  この連載では、田中拓道『貧困と共和国』を手掛かりに、連帯の哲学について考えてゆく。

貧困と共和国 - 社会的連帯の誕生貧困と共和国 - 社会的連帯の誕生 田中 拓道【著】価格 ¥4,104(本体¥3,800)人文書院(2006/01発売)



ハーバーマスの公共性論
 この書物の簡潔で巧みな要約を以下にまとめる。しばらく読んでない『公共性の構造転換』だが、アレントの「社会」の議論を含めて、まだ刺激的な書物である。

-市民的な公共性の成立。こうした公共性は一九世紀において公共性の概念が変容したことによって生まれた。それまでの「社団国家」が崩壊し、「統治権力の批判的吟味と正統化を担う〈市民的公共圏〉が、国家と社会、公的領域と私的領域の分離を前提として成立した」(p.29)。

-私的経済圏の成立。すでに一八世紀から、「家政の枠組みを商品交換によって形成された私的経済圏は、クラブや新聞を通じて、公権力に対抗するもうひとつの〈公共圏〉としての意味を帯びていく。

-公論の形成。「一八世紀末には、市民社会における民衆の自由な討議によって形成される「公論」が、公権力の正統化を担う唯一の審級とみなされるようになる」(p.30)。

-社会の形成。一九世紀半ばから産業資本が進展し、階級的な利害対立が政治的対立に点かすると、公的領域と私的領域の区別が崩れ、その中間に社会的な領域が登場してくる。ハーバーマスは、この領域が「再政治化された社会圏であって、これを〈公的〉とか、〈私的〉とかいう区別の見地のみからとらえることは、もはやできなくなっている」(ハーバーマス前掲書一九八ページ)と指摘する。

-親密圏の形成
 このようにして社会が登場し、この場は政治的な意味をもつが、これにたいして指摘な領域として、ルソーが最初に思想化した「親密圏」が、公共性とのつながりを断絶する形で形成されるようになる。

 田中は公共性の変容と「社会の誕生」の時期をハーバーマスのように一九世紀後半の産業資本の展開にではなく、七月王政期における「社会問題」認識の成立にみている(p.30)。これは本書の中心的なテーマであり、ドンズロなどフランスの社会学者たちの共通意見でもあるが、それでも「社会の誕生」を、資本主義と市民社会の成立と国家との関係から考察するアレントハーバーマスの議論の普遍性にひかれるのもたしかである。

 

 なお、下記の橋本努のレジュメは役立つ。きちんとしたレジュメは妙な論文よりも有益であることが多いのである。

https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/9485/1/42092_12.pdf

 

 ハーバーマス『公共性の構造転換』未来社、一九九四年

公共性の構造転換 - 市民社会の一カテゴリーについての探究 (第2版)公共性の構造転換 - 市民社会の一カテゴリーについての探究 (第2版)

ハーバーマス,ユルゲン【著】谷 貞雄/山田 正行【訳】価格 ¥4,104(本体¥3,800)未来社(1994/05発売)

目次

第1章 序論―市民的公共性の一類型の序論的区画(出発点の問い;代表的具現の公共性の類型について;市民的公共性の成立史によせて)
第2章 公共性の社会的構造(基本構図;公共性の制度〈施設〉;市民的家族 公衆に関わる私生活の制度化;文芸的公共性と政治的公共性との関係)
第3章 公共性の政治的機能(モデルケースとしてのイギリスにおける発展;大陸における諸変型;私的自律の圏としての市民社会 私法と自由化された市場;市民的法治国家における公共性の矛盾をはらんだ制度化)
第4章 市民的公共性―イデーとイデオロギー(公論 論点の前史;政治と道徳の媒介原理としての公開性―カント;公共性の弁証法によせて―ヘーゲルマルクス自由主義理論にあらわれた公共性の両価的把握―ジョン・ステュアート・ミルとアレクシス・ド・トックヴィル
第5章 公共性の社会的構造変化(公共圏と私的領域との交錯傾向;社会圏と親密圏の両極分解;文化を論議する公衆から文化を消費する公衆へ;基本図式の消滅 市民的公共性の崩壊の発展経路)
第 6章 公共性の政治的機能変化(民間文筆家たちのジャーナリズムからマス・メディアの公共サーヴィスへ―公共性の機能としての広告;公開性の原理の機能変 化;造成された公共性と非公共的意見―住民の選挙行動;自由主義法治国家から福祉国家への変形過程における政治的公共性)
第7章 公論の概念のために(国家法的擬制としての公論 この概念の社会心理学的解析;問題解明の社会学的な試み)

 

 

公共性の構造転換 - Wikipedia

公共性の歴史

ヨーロッパ16世紀以後に絶対主義時代になると、近代的な公的生活圏と私的生活圏が分離した。国家が公的なものであり、国家ではないものが私的なものとの観念が成立した。国家において行政府司法府立法府の分化が進み、それらが公的なものとなり、王侯の私的家産と公的予算は分離していたために官僚制常備軍の背景となった。つまり公私の相違は国家と社会の境界性にあったのであり、ハーバーマスは公共性の起源を私的領域にあると考えている。

後に市民社会が 出現すると、社会的地位に関係ない社交性や民衆による討議、万人が討論に参加することの可能性などに特徴付けられる市民的公共性がもたらされた。市民的公 共性では論証以外のあらゆる権威を認めなかった。参加者は相互に論証による説得を受け入れることで、さまざまな問題を争点化することができた。しかし市民 的公共性はその矛盾として社会階級の利害が討議の前提となっており、夜警国家だった。

無産階級との階級闘争を経ながらも、公共性は階級的疎外を縮小させる政治制度を 発展させた。そして無産者が公衆として討論に参加できるようになれば、無産者大衆にも公共性は開かれたものとなったためにそれが反映されるようになった。 19世紀の中ごろになると、公共性は無産者にも開かれたために国家の社会への積極的介入が要請されるようになった。しかしこれは市民的公共性にとって新た な問題を引き起こすことに繋がった。

崩壊する公共性

19世紀までは国家と社会は分離していたために市民的公共性は国家から自律していた。だが19世紀に労働組合と労働者政党が組織され、また参政権の下方拡大が実現されると、多くの労働者の代表が議員となる。労働者政党は貧困からの解放を掲げ、社会権の確立を目的とする政策実現を進めたために、20世紀には労働法社会保障法により福祉国家を実現した。これは市民的公共性に大きな変化をもたらすことになり、人びとは行政サービスの受益者となったために批判的理性を以って政府に主体的に向き合うことができなくなった。公共性への参加の自由は受益と消費の自由に変容してしまったのである。

政治過程では大衆に対して社会集団、政党、行政機構、報道機関が働きかけており、本来の公共的論議よりも、大衆の感情や利益に働きかけることによっ て民主政治での多数派の支持を得ることが可能となる。そうなればハーバーマスは公共性の本質である議会の機能も喪失し、議会は討論ではなく利害調整の場に なると指摘する。市民的公共性においては議員は国民全体を代表するものとされていたが、大衆デモクラシーの下では政党の支持母体に命令される対象となる。 議会の討論は論理的な説得ではなく有権者に向けた示威や印象を与えるための劇場となる。参政権の拡大は結果的に批判的な審議能力の低下をもたらしたのであ る。

公共性の再生

ハーバーマスは公共性の再生を模索しており、福祉国家の成立の公共性の傾向を示している。それは企業や圧力団体、 官僚などの集団間にみられる構造的利害対立や、官僚的決定の操作的な広報活動である。しかし理性的な市民的公共性を持続させるかぎり福祉国家は政治的に機 能する公共性が必要である。そこでハーバーマスは諸集団の均衡とまたその組織の内部において公共性を確立することを提案している。つまり諸集団を通じた公 共的な意志疎通と批判に参加させることを目指したのである。1989年の東欧革命を経た後にはハーバーマスは自発的なアソシエーションにも可能性を見出している。

 

ハバーマス公共性の構造転換』[1962→19902=1994]未来社

www.econ.hokudai.ac.jp/~hasimoto/Resume on Habermas Structur...

橋本努・講義「経済思想」. 1. ハバーマス公共性の構造転換』[1962→19902=1994] 未来社. 第一章 序論 市民的公共性の一類型の序論的区画. ◇PR としての公共性. ・ ほんらいの世論の機能であった公開性は、いまや世論の注目を引きつけるもの、「広報.

https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/9485/1/42092_12.pdf

 

ハンナ・アーレントとポスト・ハーバーマス公共論 - 早稲田大学リポジトリ

ハーバーマスの公共性・公共圏論の影響が強かった。60. 年代後半以降の住民・市民運動 における公共性. 論のみならず,近年の市民社会論の見直しやメ. ディア論の隆盛の中 での公共圏論など,時代や. 文脈は相違するものの,いずれもハーバーマス. の論が 積極的に 

https://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/9485/1/42092_12.pdf

 

「行政国家」から考える公共性論 - 学術成果リポジトリ管理システム

  • mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/ReCPAcoe/miyazaki.pdf

    本稿の課題は、ハーバーマスの『公共性の構造転換』における課題である社 会国家 Sozialstaat にどう対処すべきかという問題を共有しつつも、いまひと.つ別の分析視角 として「行政国家」を加えることによって、より深い問題認識. が可能となることを示すこと に ...

http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/ReCPAcoe/miyazaki.pdf

 

 

  • 熟議民主主義と「公共圏」

    www.kiss.c.u-tokyo.ac.jp/docs/kss/vol19/vol1904yamada.pdf

    たった熱言義民主主義論に焦点を置しゝて検討 して. いくことにする川。 ーー・熟議民主 主義論における 「市民社会」. 「公共」 概念. =-ー-ハーバーマスの 「熟議的政治」. 公共圏 概念の意義を再提起したハーバマス. による 『公共性の構造転換』 第二版の序文や、.

http://www.kiss.c.u-tokyo.ac.jp/docs/kss/vol19/vol1904yamada.pdf

 

 

 

http://www.sed.tohoku.ac.jp/library/nenpo/contents/53-2/53-2-17.pdf