明快なマキアベッリ論--鹿子生浩輝「マキアヴェッリ、自由と征服の政治学」

タイムリーな企画である岩波『政治哲学』シリーズを読む。
今回は第一冊『主権と自由』のうちの明快なマキアヴェッリ論である鹿子生浩輝「マキアヴェッリ、自由と征服の政治学」。


 まずマキアヴェッリの解釈史を概観。『君主論』を中心として絶対君主の助言者とみなすもの、『リウィウス論』を中心として共和主義者とみなすもの、x第三にオポチュニストとみなすもの。著者は二番目に近い。

 著者は二〇一三年に『征服と自由、マキアヴェッリの政治思想とルネサンスフィレンツェ』(風行社)を出版しているが、この論文はその要約のようなものだ。マキアヴェッリの政治思想を、フィレンツェの政治状況と照らして考察する。まず『リウィウス論』は、自由の政治学の立場であり、上司でフィレンツェの統治権を与えられていたソデリーニを支援する立場から、共和主義的な政治理念を主張した書物である。ここではマキアヴェッリは共和主義者であり、民衆の自由とフィレンツェの自律を熱望し、市民軍を組織する。これがマキアヴェッリの本領だろう。

 一方では『君主論』の政治思想を、ソデリーニの後にフィレンツェに返り咲いて権力を掌握したメディチ家との関係で考察する必要がある。これは征服の政治学である。ただし宛先が二人なので、複雑になっている。

 

 ジュリアーノは兄のローマ教皇から与えられた北イタリアの小国家の君主となり、征服者として国家を統治する必要がある。そのための教訓として書かれたのが第六章と第七章である。この側面で君主は伝統的な徳の君主としてではなく、時には暴力もふるう狡猾で賢明な統治者として振る舞う必要がある。手本はチェーザレ・ボルジアである。

 ジュリアーノの死後、マキアヴェッリはこの書物を小ロレンツォに献呈することになる。ロレンツォはフィレンツェの統治者であり、第九章では暴力的な統治ではなく、市民的君主になる方法が考察されている。この部分がロレンツォに宛てられた部分である。この章はフィレンツェという「都市の統治のための政治的助言」(26)として書かれているのである。

 著者はマキアヴェッリの近代性をあまり高く評価しない。ギリシア的な政治哲学の伝統を踏襲していると指摘する。たしかにそのとおりだが、マキアヴェッリに現れた近代性の兆候をもう少し評価してもよいかったのではないか。

■参考文献
Hans Baron, The Crisis of the Early Intalian Renaissance, Princeton , 1966


ポコック『マキアヴェッリアン・モーメント』名古屋大学出版会、二〇〇八年

 

マキァヴェリアン・モーメント - フィレンツェの政治思想と大西洋圏の共和主義の伝統

マキァヴェリアン・モ-メント / ポーコック,ジョン・G.A.【著】〈Pocock,John G.A.〉/田中 秀夫/奥田 敬/森岡 邦泰【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

 

リドルフィ『マキアヴェッリの生涯』岩波書店、二〇〇九年

マキァヴェッリの生涯

マキァヴェッリの生涯 / リドルフィ,ロベルト【著】〈Ridolfi,Roberto〉/須藤 祐孝【訳・註解】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

 

スキナー『マキアヴェッリ自由の哲学者』未来社、一九九一年


鹿子生浩輝『征服と自由、マキアヴェッリの政治思想とルネサンスフィレンツェ』風行社、二 〇一三年

征服と自由 - マキァヴェッリの政治思想とルネサンス・フィレンツェ

征服と自由 / 鹿子生 浩輝【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

 

 

佐々木毅マキアヴェッリの政治思想』岩波書店、一九七〇年

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 バロンのものは古いが、マキアヴェッリについて市民的人文主義の概念を提起した書物。ポコックは長い間翻訳されなかったが、アメリカ革命を含めて、マキアヴェッリ以来の共和主義的な伝統を考察した名著。リドルフィのは詳しいマキアヴェッリの伝記。スキナーもポロックと似た立場に立つマキアヴェッリ論。佐々木のは古典的な日本のマキアヴェッリ論。

 

あと注目したいマキアベッリ論。

シュトラウスの翻訳が出ていたのか。驚いた。

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マキアヴェッリ - 転換期の危機分析 叢書・ウニベルシタス

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マキアヴェッリとルネサンス国家 / 石黒 盛久【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

 

ジェズイットとマキアヴェリ - 16世紀-17世紀初期におけるジェズイット批判とジ

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哲学者マキァヴェッリについて

哲学者マキァヴェッリについて / シュトラウス,レオ【著】〈Strauss,Leo〉/飯島 昇藏/厚見 恵一郎/村田 玲【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア

 

マキァヴェッリの拡大的共和国―近代の必然性と「歴史解釈の政治学」

2007/4 厚見 恵一郎 木鐸社 (2007/04)