リチャード・オールティック--現代の思想家(027)

アメリカの英文学者のリチャード・オールティック。ヴィクトリア朝の研究で有名で、『ロンドンの見世物』が代表作。朝日新聞に掲載された種村の書評を引用しておく。

 

 

 

Works

  • Professor Koeppen: The Adventures of a Danish Scholar in Athens and America (1938) with H. M. J. Klein
  • Richard Owen Cambridge, Belated Augustan: A Dissertation in English (1941)
  • A Literary History of England: IV The Nineteenth Century and After (1948) with Samuel Chew
  • The Cowden Clarkes (1948)
  • The Scholar Adventurers (1950)
  • The English Common Reader: A Social History of the Mass Reading Public 1800–1900 (1957)
  • Guide to Doctoral Dissertations in Victorian Literature 1886-1958 (1960) with William R. Matthews
  • A Selective Bibliography for the Study of English and American Literature (1960) with Andrew Wright
  • The Art of Literary Research (1963)
  • Diction And Style in Writing (1967)
  • Browning's Roman Murder Story: A Reading of The Ring & The Book (1968) with James Loucks
  • A Preface to Critical Reading (1946)
  • Lives and Letters. A History of Literary Biography in England & America (1969)
  • To Be in England: An American Literary Man's Personal View (1969)
  • Victorian Studies in Scarlet: Murders and Manners in the Age of Victoria (1970)
  • Librarianship and the Pursuit of Truth (1972)
  • The Shows of London: A Panoramic History of Exhibitions, 1699–1862 (1978)
  • Victorian People And Ideas: A Companion for the Modern Reader of Victorian Literature (1980)
  • Paintings from Books. Art and Literature in Britain 1760–1900 (1985)
  • Deadly Encounters: Two Victorian Sensations (1986) also as Evil Encounters (UK)
  • Writers, Readers and Occasions: Selected Essays on Victorian Literature and Life (1989)
  • Of a Place and a Time: Remembering Lancaster (1991)
  • The Presence of the Present: Topics of the Day in the Victorian Novel (1991)
  • Punch: The Lively History of a British Institution 1842–1851 (1997)
  • A Little Bit of Luck: The Making of an Adventurous Scholar (2002)

 

商品の詳細
 

ロンドンの見世物 1

1990/2
R.D.オールティック浜名 恵美
 
商品の詳細
 

二つの死闘―ヴィクトリア朝のセンセーション (異貌の19世紀)

1993/6
R・D・オールティック、 弘之, 井出
 
 

ロンドンの見世物1 [著]リチャード・D・オールティック

[評者]種村季弘(評論家)  [掲載]1990年02月04日   [ジャンル]

book.asahi.com

 

表紙画像 著者:R.D.オールティック、浜名 恵美  出版社:国書刊行会 価格:¥ 4,860

■だまされて喜ぶ人間

 人間はよくよくだまされるのが好きらしい。ひょっとすると、だまされな いと生きていられない生き物なのではあるまいか。それも、とびきりバカバカしいものにだまされれば、なおのことご満悦。どうもそうなんじゃないかとうすう す察しはついていたが、この本を読んではっきりした。それが、とりあえずの感想である。
 はじめは教会の聖遺物だった。イエスが磔(はりつけ)に された真の十字架の一片、聖墓の石、御昇天の地とゴルゴダの丘からもたらされた他の石もろもろ。いずれにせよ「頼朝公3才のみぎりのしゃれこうべ」みたい なものだ。なんだか根も葉もなさそうな、そんなものを見たいばっかりに、日曜日ごとに教会へでかけていた。それを、クロムウェルという野暮天があらわれて 禁止した。のみならず破壊してしまった。といって、それでだまされたい衝動が消滅したわけではない。博物館という見世物小屋に場所をかえた。宗教から啓蒙 (けいもう)へ、信仰から教育へ。信仰の奇跡が効力をうしなうだけ、ペテンが学問、科学の体裁をとる。
 いきおい、だし物は精密化する。でもいず れは馬脚をあらわして、あきられてお払い箱。今度はもっとうまくだましておくれよ。仕掛人と観客のイタチごっこがはじまり、見世物はますます精密化し、レ パートリーも多様化する。キャビネット(珍品収集室)から博物館へ、妖怪変化屋から「科学的」な機械仕掛けの発明展へ。蝋(ろう)製の機械人形が歌ったり 字を書いたりし、時計仕掛けでカタカタ動きまわる。噴水がふきだし、火山が噴火し、天高く気球が舞い上がる。すばらしい18世紀、進歩の時代よ。なにが進 歩か。いうまでもない、ペテンの手口が進歩した。
 これまでのところ(第1巻)のきわめつきはパノラマだ。ロンドン市内、未開地やアルプス高山、 大地震、海難、対岸の火事フランス革命を一望の大パノラマ。この世の果てと世界の終わりを、見世物元祖の教会とは一味ちがった手口でたっぷり見せる。あ あおそろしい、ああ怖い。これを要するに、「『科学的』『歴史的』珍品が、聖書や聖者列伝に信憑性を与えた宗教的遺物にとって代わって、人びとの好奇心の 的となった中世のたそがれ時」を出発点に、近代の見世物そのものをパノラマ化した。ご用とお急ぎでない方のための好読み物。わくわくするような続巻予告あ り。ただしバカバカしいものが大嫌いな向きは、お読みにならないほうがいい。

 =種村季弘
 (小池滋監訳、国書刊行会・438ページ、4,300円)