フロイト、「症例ドラ」執筆(1901)--20世紀の思想と芸術

フロイトの初ての本格的な症例研究。転移に対処できず、1900年の大みそかに、患者の宣言によって、治療は中断する。しかし前年末に刊行した『夢解釈』の成果を踏まえた治療の記録として、今なお必読の書である。

 

世界大百科事典 第2版の解説

ドラ【Dora】

S.フロイトによって1901年に書かれ,05年に《あるヒステリー患者の分析の断片》と題して発表された症例報告中の患者の名。ドラは幼時から夜尿,呼吸困難偏頭痛,神経性の咳などに悩んできたが,18歳のときに失声,父と争った後の失神発作などが激しくなって,フロイトの治療を受けるに至った。フロイトはドラの分析を通して,父親とK氏夫人との不倫な関係や,彼女に対するK氏の性的誘惑などの契機,疾病利得,ヒステリーの身体症状の基礎をなす身体的対応の概念,症状と性衝動の関係など,ヒステリーの精神病理を解明した。