ジュヌヴィエーブ・ロディス=レヴィス『 デカルトの著作と体系』--デカルト論の紹介(1)

  デカルトの著作と体系
 デカルトの著作と体系

ロディス・レヴィス,ジュヌヴィエーブ【著】小林 道夫/川添 信介【訳】紀伊国屋書店(1990/12発売)

 

 デカルトの生涯と思索をていねいに探求する書物。時間的な系列を追う第一部と、テーマ別の第二部で構成される。ただし第二部の五章から七章までは、第一部の 最後の第四章で語られた思想的な内容をテーマ別に考察したものであり、最後の第八章は晩年の一六四九年のデカルトの情念論を手掛かりに、道徳論を考察する のである。そこで全体としては、時間的な系列は守られているとも言えるだろう。

第一部「真理の探求」では、デカルトの生涯を追いながら、その思想的な営みを一覧する。これがタイトルの「著作」の部分だろうか。


第一章 若きデカルトの思想形成と使命
 この章では、デカルトの誕生から学院での勉学、数学にもった関心などを説明する。この章を締めくくるのは、有名なデカルトの夢の解釈である。

第二章 九年間の方法の訓練
  第二章では、一六一九年に「炉端の部屋」で夢を見てから、世間を放浪しながら、歩いた一六二八年までのデカルトの思想家としての「修業時代」を考察する。 光学や普遍数学など、特に自然科学の分野での遍歴が続けられる。この時期に「普遍的言語」の構想が誕生する。また哲学は、「真理の種子」を育てるものだと いうアイデアも生まれる。前の時期にはベークマンが彼の思想的な友人だったが、この時期にはパリのメルセンヌが親しい友となる。またパリのリベルタンたち とは「無縁であった」(87)というが、そうだろうか。方法的な懐疑を始めたのも、この時期だろう(87)。一六二五年には友人に動物が自動機械であると いう説を語っている(93)。『精神指導の規則』はこの時期の論文であろうか(95)。

第三章 一六二九年―一六三〇年の形而上学と自然学の基礎
  一六二九年からデカルトはオランダに隠退して、形而上学の構築に励むことになる。動物自然機械論や永遠の真理についての理論などが展開される。この時期は 著作がないために、メルセンヌとの書簡などから、再構成する必要がある。生得観念の理論、永遠真理創造説などは、その後の著作でさらに展開されることにな る。

第四章 『三試論』から『哲学原理』へ
 一六三七年には『方法序説』と『屈折光学』『気象学』『幾何学』で構成される『三試 論』が執筆される。この順序とは反対に、「数学が方法論状の考察の出発点」(183)である。ガリレイ事件のためにそれまで執筆していた『世界論』は発表 されない。「方法序説」によると、世界論から人間論へと議論が展開されたはずである(166)。
 一六四一年には『省察』が、一六四四年には『哲学原理』が執筆される。デカルトの思想的な頂点の時期である。

第二部「真理の基礎」では、次の四つのテーマごとに、デカルトの思想の分析か進められる。第二部がタイトルの「体系」に相当するのだろう。


第五章 懐疑から不可疑の第一原理へ
 この章では、『省察』を中心に、懐疑の方法によっていかにしてコギトの原理が引き出されたかを分析する。


第六章 観念から神へ
 この章では、コギトの観念から神の存在証明へ、世界の存在の確証へと進むデカルトの思想の歩みを追跡する。


第七章 身体と物体
 この章では、その後の近代哲学の重要なテーマとなった心身論の端緒を、デカルトがいかに確立したかを考察する。


第八章 デカルトの知慧
 最後の章ではデカルトの『情念論』を軸として、デカルトの道徳論が検討される。
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 全体的にみて非常にバランスのとれた研究書であり、まず最初に手にとって読まれるべき一冊だろう。