社会問題への対処--連帯の哲学(011)


■社会問題への対処
□統計
 社会問題への新たな知として統計が生まれた。「ケトレにとって、統計的な「平均」とは、「社会の表現」である。「善なるものは」は、アプリオリに与えられるののではなく、社会の現象間の統計的偏差-正常と異常-の中に表現されている。「社会に関する知こそが、個々人の振る舞いの善悪を判別し、あるべき秩序を指し示すことができる」(田中拓道『貧困と共和国』前掲書、79-80ページ)。

□モラル
 この時期の社会統計は、人民のモラルを読解するという目的と結びついている(同、80ページ)。モラルとは道徳よりも広い概念で、「人々の振る舞いや生活態度を規定する集合的な精神のありかたを意味している」(同)。人間論としての道徳哲学ではなく、「人間同士の関係の相対を扱う「社会の科学」の対象と、モラルという語が用いられた。
 社会問題がモラルの問題として捉えられ、「下層階級のモラルを組織的に改善すること、すなわちモラル化を統治権力の新たな課題とする」(81ページ)ようになる。

□危険
 「貧困は、「社会的」環境にその原因が求められるだけでなく、秩序を脅かす要素と結びつけられることで、「社会問題」として認識される」(82ページ)。重要なのは犯罪行為そのものではく、「危険」である(同)。

 これらの概念は結びつく。社会的な秩序を維持するためには、統計によって社会の実情を明らかにし、その危険な兆候を発見し、下層階級のモラルに働きかけることで、その危険を防止することが必要なのである。

□文献
-ケトレ『人間について』(岩波文庫